従来入院して行われていた全身麻酔下手術が日帰りで安全に行えるようになった最大の理由は、気管内に管を入れないラリンジアルマスクの開発とプロボフォールやレミフェンタニル(アルチバ)による完全静脈麻酔を用いた麻酔法の進歩です。
そもそも鼻など狭い範囲の手術では手術そのものの侵襲(手術における患者様の心身へのダメージ)よりも気管に管をいれる挿管に伴う侵襲が大きくそのため筋弛緩薬や深い麻酔が必要でした。挿入された管は手術中には分泌を増やし気管壁を傷めます。手術終了時には覚醒してから管を抜くため苦しく、術後ものどの痛みや痰、痛みで水分や食事がとれないなどの入院管理が必要でした。気管の入り口の喉頭にマスクをかぶせるラリンジアルマスク法は挿管そのものと挿管に必要な筋弛緩薬を不必要にすることができ、日帰り手術の範囲が広がりました。
麻酔薬も基本的にはフェンタネストかアルチバ(ラリンジアルマスクは大きく、のどに入れると吐きそうになる咽頭反射が出やすいのですが、アルチバはこの反射を抑えます)とプロボフォールだけで行え、麻酔そのものが単純になりかつ高価な麻酔薬も少なくて済みます。近年は笑気麻酔も用いません。これらの静脈麻酔薬は投与後数十秒で麻酔がかかり、投与中止後数分で覚醒します。術後ののどの痛み、筋肉痛や疲労感もほとんどありません。そのため、麻酔覚醒後30分で水が飲め、120分で普通に帰宅できます。